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マルホランドドライブの謎 [映画]

この映画についてはほぼ語りつくされた感はあるものの、いくつかの点については言及されていない点があり、私的考察を加えた。

①ダイアンの夢の中でイタリア人マフィアの大物はなぜカプチーノを吐いたのか?

このマフィアの大物は、現実とされるシーン(映画後半)のアダム邸のパーティーのシーンで登場します。この人はパーティーのゲストの一人にすぎないのですが、おそらくダイアンの深層心理に張り付いていたために、夢の中の登場人物になったのでしょう。このとき、ダイアンはカミーラとアダムがいちゃいちゃして婚約発表する中において、コーヒーを飲んでいました。このコーヒーがカプチーノかどうかはわかりませんが、カップの大きさからすると、いわゆるアメリカンコーヒーではなさそうです。自分が認めたくない現実と向き合っているときに、ダイアンはコーヒー(カプチーノ)を飲んでいた、そしてその時に目にしたのがイタリア人マフィア様風貌の人物だったわけです。つまり、実際の味はともかくとして、イタリア人マフィア(様の人物)は嫌な思い出とリンクするので、その時飲んでいたコーヒーを思い出させたというわけ。ちなみに、このコーヒーカップが同一かどうか調べましたが、違うデザインのものでした。

②アダムはなぜ安ホテルに泊まったのか?

夢の中のシーンでアダムは失脚して安ホテルに身を寄せます。この夢の中のアダムも、ダイアンの深層意識下におけるアダムなので、その主体はダイアンといえるかもしれません。アダムはシンシア(おそらくアダムの知り合い?映画関係の会社の部下?)に電話をかけます。シンシアは「うちに泊まっていってもいいのよ」といいますがアダムは断ります。その後シンシアは「せっかく誘ったのに・・・」みたいなことを言いました。これはさりげないシーンですが極めて重要です。現実世界(映画後半)のアダムはダイアンと婚約するほか、どちらかというとプレイボーイ風の印象を受けます。一方、夢の中のアダムは奥さんを出入りの業者に寝取られたりと散々なようです。つまり、ダイアンとしては、アダムを女たらしではない(据え膳を食べない)つまらない男性として貶めたいという深層心理があったのだという解釈をしました。
さて、このシンシアですが、映画パンフレットの「全登場人物」に登場していませんでした。でも、わざわざこのシーンを挿入したわけですから、おそらく上記のような意図があったのでしょう。

③現実は本当に現実なのか
映画は大体2時間を経過して残りの20分が現実と回想という想定ですが、これが本当に現実なのかということです。もちろん、マルホランドドライブという映画自体が作りものですが、そういうことではなくて、です。アダム邸のパーティーで、さりげなくカウボーイハットをかぶった人物が後ろを横切るシーンがあります。この人物が、前出の「カウボーイ」(死神の象徴)と同一人物であるかどうかはわかりません。しかし、カウボーイをかぶった人物をわざわざこのパーティーの客として登場させています。この人物が死神と同一人物であれば、このパーティー自体が現実ではない可能性が出てきます。なぜなら、カウボーイは現実世界に存在しないはずだからです。一方、ただの偶然?の可能性もあります。わざと解釈の余地を残したということかもしれません。
 このことに加えて、パーティーのシーンへ移行する場面で映像が曇りガラス様にぼやける加工が施されています。これは、ダイアンの「回想」シーン(つまり現実)だからぼやけているのか、もしくはこのパーティーすらも現実ではないのか、どちらとも捉えられます。

④コーヒーカップの謎
①のカプチーノのコーヒーではなく、「ウィンキーズ」及び現実世界でのダイアンの自室のコーヒーカップが同一であったという点についてです。これについては、記憶の曖昧説と、実際に同一だった説の二つがあるようです(勝手に名付けました)。
記憶の曖昧説・・・ウインキースのコーヒーカップと同一のカップを私用で使うはずがない。よって、私用のコーヒーカップが妄想の世界の「ウインキース」で登場したのだ。(だから、映画の前半が夢の中であるということの一つの証明である)というもの。しかし、これには矛盾があって、ダイアンが殺し屋にカミーラの暗殺を依頼するシーンでも同じカップでした。このシーンは「回想」であるとはいえ、現実とされることをベースにした映像なのですから、齟齬が生じます。
実際に同一説・・・ダイアンはおそらく現実世界で女優を夢見ながら「ウインキース」で店員として働いていました。本当はいけないことですが、バイト先の食器をいくつか失敬するということは十分にありえることです。なぜ店員だったかということですが、夢の中の店員が「ダイアン」のネームタグをつけていることがヒントです。現実世界における視覚情報が夢の中にでてくることは私などは良く経験するところです。もし現実世界でダイアンがこのネームタグを見ていたことがあれば(何せ自分自身のものなのですから)、夢の中で出てきてもおかしくはない。そして、現実世界で「ベティ」という名札を目にします。深読みかもしれませんが、ダイアンはかつて働いていた店なのでついつい名札に目が行ってしまうのかと・・・。以上の理由から、実際に同一のコーヒーカップであるという説です。

私自身は後者の説を取りたいのですが、これにも矛盾があります。ダイアンは祖母から相当額の遺産をもらっているので(殺し屋に依頼するときの札束)、働く必要がないのです。そうはいっても、一向に売れず端役ばかりでそのお金も減っていたようなので、バイトを始めたのかもしれません。

⑤ 札束の謎
④を書いているときに思い出しました。夢の中のリタ(=現実のカミーラ)が持っていた札束が何なのかです。夢の中のリタは現実世界のカミーラの裏返しですが、意識の主体はダイアンです。(!!!こういうところが複雑!!!)。おそらくこの札束は、ダイアンが夢を追ってLAに出てきた時の祖母の遺産だと思います。もちろん、カード社会のアメリカで現金を持ち歩くという点が不自然ではあるのですが・・・。そして、ダイアンが殺し屋にカミーラの殺害を依頼するときには、バッグの中に札束がありますが、かなり減ってしまっているようです。ダイアンはハリウッドでは端役ばかりで鳴かず飛ばずだったので、殺し屋に支払ったらもう残金ゼロ状態かもしれません。たしかにダイアンの部屋はきわめて質素でした。

⑥夢の中のリハーサルのセリフは?
夢の中でベティがリタとオーディションの練習をするシーンがあります。その中で「パパに言いつけてやるから!!」とか「i hate you !! i hate you !!] というセリフがありますが、意味深長です。実際の映画で、いい大人が「パパに・・・」というセリフは多くないでしょう。
ダイアンはおそらく女手一つで育てられ、その母は死んで遺産をもらってLAに来ました。父親は本作に登場しませんが、おそらく現実世界では何らかのいろいろと複雑な事情があるのでしょう。もしかすると存命で、いざというときには助けてくれる存在なのかもしれません。
I hate you !!と、練習とはいえリタに絶叫するシーンはもうお分かりですね。リタは現実世界のカミーラの象徴であると同時に、現実世界のダイアンが意識主体です。自分を捨ててアダムに走ったカミーラを憎む気持ちがあると同時に、ハリウッドの底辺に淀んでいる自分自身への怒りでもあったと考えます。こういった細かいことにもおそらく伏線を張ったリンチ監督、さすがです。

⑦観客はいつ夢に気付くのか
初見では超難しいですが、映画の冒頭から注意深くみていると気付けるかもしれません。実際には、コテージを訪れるシーンで12号室の住人の不自然な振る舞い、17号室で死体にショックを受けて逃げ出すシーン(ボカシを使用)、真夜中なのに怪しい劇場に行くシーン、その劇場での非現実的な出し物とみていく中で、さすがにあまりにも現実感に乏しい映像で気づくとは思いますが、とはいえ夢の中の世界を現実の「映像」として撮影しているので、何気なく見ていると不可能です。私が思うのは、時々夢であるとはいえ、思いのほか現実に近い鮮明な画像の夢をみることがあります。よって、妙に納得するところがありました。

⑧オマケ なぜカツラがあったのか。
夢の世界の終盤で、リタが髪を切ってカツラをかぶります。その結果ベティ(つまりダイアン)と同化していくわけですが、なぜカツラなどあったのでしょうか?。アパートが伯母さんの所有なので、その方の持ち主かもしれません。ただ、どのみち夢の世界なので、必要な小道具はいつでも用意されていておかしくない・・・のだと思います。

イヤーほかにも書きたいこといっぱいあるけれども、これだけ映画を掘り下げたのは久しぶりです。でも映画を見ていない人には分からないわけで・・・。是非ともこの世紀の問題作に一度目を通してほしいと思います。
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